
「歯周病菌は殺菌できますか?」という質問を受けることがあります。とくに歯茎の腫れや出血、口臭などが気になっている方の中には、「強いうがい薬や飲み薬で、口の中の菌を一気にやっつけられないの?」と考える方も少なくありません。
結論から言うと、歯周病菌を完全にゼロにすることはできません。
ただし、歯周病菌の数を減らし、悪さをしにくい状態に保つことは十分に可能です。そうした管理によって、歯ぐきの健康を守ったり、進行を抑えたりすることができます。
今回は歯周病菌がどのような菌なのか、殺菌は実際にどの程度できるのか、また、歯科医院や自宅でできる対策にはどんなものがあるのかをご紹介します。
「歯周病菌」とは?
歯周病菌とは、歯と歯ぐきの間(歯周ポケット)や、歯の表面に棲みついて、歯ぐきに炎症を起こす細菌のことです。
ポルフィロモナス・ジンジバリスなど、強い毒素を持つ菌が代表的で、歯ぐきの腫れや出血、さらには歯を支える骨の破壊にも関わっています。
これらの菌は単独で行動しているわけではなく、他の菌と一緒にバイオフィルムという膜のような構造を作りながら生活しています。
台所の排水口にできるヌメヌメとした汚れをイメージするとわかりやすいでしょう。
バイオフィルムの中に隠れた細菌は、外からのうがい薬や抗菌成分が届きにくく、殺菌が難しくなります。
歯周病菌の殺菌は可能?
「殺菌できるのか?」という問いには、「一時的に減らすことはできるが、完全にいなくすることはできない」というのが正確な答えです。
たとえば、殺菌成分を多く含んだ洗口剤を使えば、口の中の細菌を短期間で大きく減らすことは可能です。
また、歯科医院で行うクリーニングや、状態によっては抗菌薬の処方などでも、細菌の活動を抑えることも可能でしょう。
殺菌方法はいろいろありますが、以下では3つの方法を紹介します。
洗口液・歯磨き粉による殺菌
日常的に使える洗口液や歯磨き粉の中には、歯周病菌に対して殺菌効果を持つ「薬用成分」が配合されているものがあります。これらを活用することで、毎日のケアに殺菌作用を取り入れることが可能です。
なかでも有名なのが、「CPC(塩化セチルピリジニウム)」「CHX(クロルヘキシジン)」「IPMP(イソプロピルメチルフェノール)」などの成分です。特にIPMPは、歯垢などの「バイオフィルム(細菌が膜を張って定着した状態)」にも浸透して殺菌できるため、歯周病菌に対して強い効果が期待されます。
とはいえ、薬用洗口液や歯磨き粉は、あくまでブラッシングや歯間清掃を補助するものです。歯磨きの代わりにはなりませんが、毎日のケアにプラスすることで、歯周病菌の増殖を抑える効果が高まるでしょう。
レーザー治療による殺菌
歯科医院では、歯周ポケット内の歯周病菌を直接殺菌するために、レーザー治療が行われることがあります。レーザーの光と熱は、従来の器具では届きにくい歯茎の奥深くまで到達し、ピンポイントで細菌を減らすことができます。
また、炎症を起こしている歯周組織に対しては、レーザーの熱で組織を蒸散させ、自然治癒を促す効果も期待されます。出血が少なく、痛みも軽減されるという点で、体への負担が少ない治療方法として注目されています。
3DSペースト
「3DSペースト」とは、歯科医院でのみ取り扱われている殺菌効果の高いペーストのことを指します。虫歯菌のミュータンス菌や、歯周病菌に対して直接的な殺菌作用を持つため、根本的な予防・改善を目指す治療の一環として使用されます。抗菌薬を含んだペーストを歯科専用のマウスピースに入れ、それを一定時間装着します。
この方法は唾液の影響を受けにくく、薬剤がターゲットにしっかり届くため、洗口液や歯磨き粉よりも高い殺菌効果が得られるのが特徴です。
歯周病菌を減らすためにできること
歯周病菌は、上記のような手段をもってしても完全に殺菌することはできません。
しかし、日々のケアと専門的な処置によって数を減らし、悪さをしにくい状態を維持することは十分可能です。
最後に、歯周病菌をコントロールするためにできることを、いくつかのポイントに分けてご紹介しますので参考にしてください。
毎日の歯磨きを丁寧に行う
歯磨きは口腔ケアの基本であり、最も大切な取り組みです。蓄積するプラーク(歯垢)は、歯周病菌が繁殖する温床となります。このプラークをしっかり取り除くことが、歯周病予防の第一歩です。時間をかけて丁寧に磨くことはもちろん、磨き方や歯ブラシの当て方も非常に重要です
自分ではうまく磨けているつもりでも、プロの視点からアドバイスを受けることで、改善できるポイントが見つかることもありますので、一度ブラッシング指導を受けてみてください。
定期的に歯科医院でクリーニングを受ける
自宅でどんなに丁寧にケアしていても、完全に汚れを落としきることはできません。
特に歯石と呼ばれる、プラークが石のように硬くなったものは、歯ブラシでは取り除くことができません。このような汚れは、歯科医院でのプロフェッショナルクリーニングで除去しましょう。
洗口剤を上手に取り入れる

歯磨きに加えて、洗口剤を日常のケアに取り入れることで、歯磨きだけでは届きにくい部分の細菌を補助的にコントロールすることができます。市販されている洗口剤の中には、殺菌成分を含むものがあり、歯周病菌に対して一定の効果が認められています。
とくに、歯周病の初期段階や、歯ぐきに炎症があるときには、洗口剤の使用が炎症の改善に役立つこともあります。
ただし、注意したいのは「洗口剤だけでは歯周病は治らない」ということ。洗口剤はあくまで補助的な手段であるということを念頭に置いておきましょう。